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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)5892号 判決

理由

一、請求原因第一項記載の事実については、当事者間に争いがない。

二、(1) 成立に争いのない甲第二号証および証人平岡昇の証言を総合すれば、第一物件は昇の所有であつたが、同人は、これを昭和三二年二月一一日原告辻に対し、同原告から借受けた元金一〇万円およびこれに対する年一割八分の割合による利息債務の履行を担保するために、譲渡する旨契約をし、占有改定による引渡をした事実が認められる。

(2) しかし、前出甲第二号証、成立に争いのない乙第一号証および証人平岡昇の証言によれば、昇が原告辻に第一物件を譲渡した昭和三二年の頃には昇は相当額の債務を負担して債権者らの追求を受け、または受けるおそれがあつた事実および原告辻は昇の娘俊子とその前年である、昭和三一年一一月一二日に結婚して昇と同居していたものであり、昇は、原告辻から金一〇万円を借りたとき、原告辻が不要だといつたのにもかかわらず、自ら一応家財道具の所有権を原告辻に移転しておくと申出て、特に公正証書をもつて第一物件につき前認定のような譲渡担保の契約を結び、しかも原告辻に所有権を移転した物件を同原告からそのまま使用貸借により借受け引続き占有を継続することとした事実が認められる。右事実を総合して判断すれば、昇は原告辻と相通じて第一物件の所有権を真に原告辻に移転する意思はないのに債権者からの強制執行を避けるため第一物件につき譲渡を仮装したものであることが推認される。よつて昇と原告辻との前認定の第一物件譲渡契約は虚偽表示として無効であり、原告辻はこれによつて第一物件の所有権を取得しなかつたというべきである。

三(1)  証人高橋実の証言およびこれにより成立の認められる甲第三号証によれば、第二物件はもと訴外高橋実の父の所有であつたところ、昭和三四年五月同人がアルゼンチンに移住するため、その住居を引払うにつき高橋実がその父に代り原告平岡に対しこれを贈与する旨の意思表示をなした上引渡をもなしたことが認められる。

(2)  しかし前掲証拠および前出乙第一号証により認められる高橋と原告平岡とは学校の同級生として特に親しい友人であり高橋は毎日のように原告平岡の家庭に遊びに行つて家族の人達とも知り合いの仲であつたこと、当時原告平岡はまだ結婚前で父親の平岡昇の下に同居している状態であり、高橋としては第二物件をむしろ原告平岡の家に贈与する意志であつたことおよび第二物件自体がいずれも家族一同が共用するのを通常とすると考えられる物件であることを総合するときは、原告平岡はその父昇の代理人として高橋から第二物件の贈与を受けたと認めるのを相当とする。前出甲第三号証も右認定を覆すには足りない。

そうとすれば、第二物件が、原告平岡の所有であるとは認められない。

四、よつて第一物件につき原告辻、第二物件につき原告平岡がそれぞれ所有権を有することを前提とする原告らの請求は理由がないので、いずれもこれを棄却すべきもの……。

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